電子カルテFAQ




仕事柄、ネットでもリアルでも電子カルテに関して訊かれることは多いので、よく訊かれる質問と現時点での回答をまとめてみました。
ただし、会社で電子カルテの取り扱いはしていましたが、主力サービスではなかったので、専門業者の意見というわけではありません。

(追記)この記事の公開当初はクラウド型の電子カルテに関しては以下のような疑念を呈していました。
が、心あるプロバイダーはバックアップの仕組みを提供するなど使用者の不信感を減ずる努力をしたせいか、現在(2022)ではこちらが主流となっています。
ただし、蓄えられたデータの2次利用に関してはいまだに明快なコンセンサスが得られていません。


Q クラウド型の電子カルテが流行っていて、コストも安く導入を検討しているが、問題点はあるのか?

A 結論から書くと「現時点(2017/2月)では、法・ガイドラインの整備が不十分なので見送った方がいい」ということになります。
確かに、クラウド型はカルテ1枚保管料50円だとか、安いところだとカルテシステムも含めて使用料無料(!)というところもあり、コスト面から手を出したくなる気持ちはわかります。
ですが、ちょっと待ってください。
保管の実作業はその手の業者がおこなうわけですが、保存義務は依然として医療機関にあります。何かおこった際、責任をとらされるのは、医療機関の管理者です。
コスト云々ではなくリスクマネジメントの観点からやめておいた方がよいと思われます。


Q 「法・ガイドラインの整備が不十分」とはどういうことか?

A クラウド型の電子カルテを使用するというのは、厚労省ガイドライン(H28.3月)の「医療情報の外部保存を事業者に委託する場合」に該当すると思うのですが、そこでは、受託した事業者は経産省ガイドライン(H24.10月)に従えということが書いてあります。
ですが、肝心要のこのガイドラインがまだまだ緩いんですね。
データセンターや通信経路網での安全対策などいいことはたくさん書いてあります。ですが、データの暗号化などは詰め切れていない面があります。
実際の開発でも、通信経路をVPNなどで構築することは現在では当たり前のように行われていますが、データの暗号化となると実装するのも実運用下でメンテナンスするのも大変で避けられる傾向があります。
したがってデータセンターに置かれたデータベースには、ローカルで置かれた場合と同様の形式でデータが格納されるわけです。
これは、医療機関の集患状況や患者個人情報が業者には丸わかりになってしまうことを意味しています。利益目的での悪意ある安直な2次利用(早く言えば、データの横流し)をするような事業者はないと思いますが、匿名化した上でのデータの無断再利用や漏洩は可能性としてありえます。そしてそのようなことがおこった場合、責任を取るのは、その事業者を選定した医療機関の管理者です。
現時点では避けておいた方が無難でしょう。
まだまだ、名の通ったIT企業でも顧客情報が流出する時代ですから。


Q 電子カルテの3要件とはなんでしょう?

A 以下の3要件のことです。

  • 真正性

    故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
    作成の責任の所在を明確にすること。       

  • 見読性

    情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
    情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。
           
  • 保存性

    法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること

表現が固いので、ちょっと記憶に定着しづらいところはありますが、言っていることは極めて妥当で納得できるものです。これ自体は。

ただし、電子カルテシステムを実稼働させたとき問題となるのが、どのようにして真正性と保存性を実現するかということです。業者の「囲い込み」との闘いになると思います。

【参考】臨床医・エンジニアの観点から、猪股弘明先生が『OpenDolphin と電子カルテの3要件とメドレー』(HorliX とか OpenOcean とか)にここら辺のことを上手くまとめてくれています。是非、読んでみてください。
余談ですが、「ある種の OpenDolphin 派生版は、三要件を満たしてはいないのではないか?」という問いにある方(確か、増田茂という人。「増田ファクト」の開発者)が「MML 出力機能があり、地域医療連携ネットワークに使われていたから大丈夫だ」のような答え方をしたことがあります。でも、これが適切な答えになっていないことはおわかりでしょう。地域医療連携ネットワークに参加して、カルテ記載内容がデータセンターに記録・保存されていれば、なんら問題ありませんが(というかデータの2次利用も期待できるから実現できていれば理想的)、データを受け取る適切なサーバに接続されていなければ要件を満たしているとは言い難いでしょう。
本当に余談ですが、これ、OpenDolphin とは別個に移行ツールつくれば解決できる問題なんですよ。なお 2.7m の方の作者の猪股先生はかつて「移行ツール(の作成)は、本体つくるよりはるかに楽」と申しておりました。
他にも Dolphin はログ出力が残せないので、乗り換えたという声も聞いたことがあります(→あった、ここだ)。
ちょっともったいないですね。


Q 現在ベストの電子カルテは何か?

多分、導入する病院規模によって異なるでしょう。
中規模〜大規模病院では、システムを含めてカスタマイズが必要になってくるので、電子カルテの基本性能よりカスタマイズ業者の技術などの方が重要になってくるでしょう。
発注主-ベンダーのコミュニケーション不足などから、システム自体が稼働せず、訴訟沙汰に発展したのは記憶に新しいところです。

カスタマイズ業者の技術 > 電子カルテ基本性能

ということはいえると思います。
最終的な使い心地は、カスタマイズ:基本機能=8 : 2 くらいあるのではと思っています。

逆に、小規模医療機関では、採用するプロダクツの性能がかなり効いてくると思います。
たぶん、一番、要望の多いのはクリニック外来向けの電子カルテだと思われますので、私が試用したり、見聞きしたりした範囲内でのランキングのようなものを掲げておきます。
(個人的な好みとしてクラウド型は除いてあります。一般的なランキングの傾向などは『Donuts とは?/電子カルテランキング』などもご覧ください。クラウド型は好きではありませんが「人気なのは、定番の電子カルテとクラウド型。正直、この傾向は数年前から続いていると思う。実際の医師は新規なものを求めているわけではないことがよくわかる」という指摘はうなづけるものがあります)


1位 メディコム
紆余曲折を経ながらも持続的に開発されている。それに伴い UI や操作性も改善している。
また、紹介サイトを見ればわかるようにラインナップも充実している。
診療予約システムなどとの連携も融通をきかせてくれる。

2位 Dynamics (ダイナミクス)
マニア向け(苦笑)ですが、好みなので。派手な機能はありませんが、ユーザーの声を反映して開発する姿勢は他の電子カルテにはないものがある。「データを人質にとる」という姿勢もなく、ここらへんを人任せにしたくない医師を中心に人気は高い。

3位 WINE STYLE
Mac での利用を前提にするとこれか Doctors Goo Will あたりになってしまいます。

4位 Dopanet Doctors
知り合いの社長さんから紹介された。Mac 専用。最終納入価格は WINE STYLE よりも安くなりそう。実際、使ったことがないので4位止まり。


番外 OpenOcean (オープンオーシャン)

(このページ公開時は、OpenOcean は公開されていたのですが、関係者曰く「全面的に書き直すから」ということで現在は OpenOcean は公開されていません。ほぼ同機能の OpenDolphin-2.7m や Java のアップデートに合わせた OpenDolphin-2.7.1m というものがありますので、読み換えてお読みください)

まだ、ほとんどの方が知らないんではないかと思います。OpenDolphin 派生電子カルテの一つです。当然、オープンソースです。
Ocean の選択理由の前に OpenDolphin に関してちょっと書きます。
OpenDolphin は、・オープンソースである、・Windows, Mac, Linux で動作する、ということで一時期すごく人気がありました。(事実、2010年頃のランキングでは、軒並み上位に入っていたと思います)
実際、私も、その頃は、ドルフィンをオススメしていました。ですが、その後、開発ペースが鈍り、他社電子カルテの性能面での追い上げもあって、今では、これといった特徴のないプロダクツになったと思います。開発元が、どこかで、舵取りを失敗したのではないかと思うのですが、これに関しては、Q&A の趣旨に外れるので機会があれば別に書きたいと思います。
Ocean は Dolphin にあった欠点、
・ある種のバグ
・わかりにくい「保存性」の担保(所見内容をデータコンバートしにくい)
といった問題点を解決しており、見方によっては、本家 Dolphin の性能を超えています。
ただし、もともと開発陣は
・当時の LSC 版の big fix
・データの簡易な書き出し機能の追加
を意図して開発、ソースコードやインストール方法などを一般公開しており、一般的な普及にはあまり積極的ではないようです。実際、公開以来、開発陣曰く「商用に供したことは一度もない」そうである。

→ 結局、OpenOcean は WebDolphORCA に統合されそうです。

ところで、例の半田病院の事件以降、厚労省のガイドラインも改定され、html で患者カルテを閲覧できるようなバックアップシステムの具備が推奨されています。
OpenDolphin-2.7m/OpenOcean/DolphORCA は『OpenDolphin HTML/PDF Viewer』があるので、ここらへんは完全に対応。
他方、他のファクトはここらへんの言及は一切なし。
これでは、流石に使えないでしょう。
結局、現在でも生き延びたのは猪股先生バージョンのみだったというのはなんとも皮肉な話ですね。


(追記)月日の経つのは早い。内容も古くなった感じがするので、若干、リバイズした。
ところで、この間おこったことで、注目に値するのはクラウド型の隆盛・新規参入企業の増加だろうか。
注目すべきは、そのクラウド型電子カルテ CLINICS を開発している企業の一つ、メドレーという会社が、NOA(X)、OpenDolphin を次々と買収していったことだ。
これから淘汰・統合の時代が始まるんですかねえ(嘆き)。

(追記2)DolphORCA に関して
OpenOcean の後継、みたいな書き方してますが、ソースコード的には OpenOcean やもちろん OpenDolphin のコードは一切使ってないです。
そもそも構成からして違う(『DolphORCA と三層クライアントサーバシステム』など参照)。
これは、ドルフィンの欠点がもう無視できなくなった、新たに設計した方がいい、というコンセンサスが 2.7m 系の関係者に生じたためでしょう。
実際、2.7 系のメイン開発者の猪股(弘明)先生も、少なくともデスクトップクライアントに関しては、「Ver6 で最後」と言っています。
ドルフィンの欠点は色々言われていますが、

・バイナリ記録方式

・サーバーが完全な REST にはなっていない(Java に依存している部分がある)

あたりは、ロートルな私でも流石に「設計的に古いな」と思います。
DolphORCA では、当然

・テキスト記録方式

・バックエンドはほぼ完全な REST

に変更になっています。
(フリーで公開されているバックエンドサーバーバイナリで確認できます)
後者のおかげでフロントも Java である必要はなくなってます。

ところで、(現在では)無駄に複雑になったドルフィンのデータ構造&処理方式を整理したいというのが、DolphORCA のモチベーションの一つになっていたと思うが、最近、気が付かれ始めているのが、「動作が速い」ということ。
サーバーは二つ介さないといけないし、クライアントはブラウザだし、で、速度に関しては、誰も期待していなかったと思うが(スクリプト系より速ければいいでしょ程度)、技術的に性能調査したわけではないが体感でわかるレベルで速い
ドルフィンの処理方式が(現在では)いかに迂遠になってしまっているかがこのことからもよくわかる。





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